1983年1月19日
0600 目が覚めて2日前から読んでいたヴェルナーの「鉄の棺」を読み了える。0700 起床。入浴後昇橋。本船は千島列島の得撫島沖約60マイルを走っていた。空は曇っているが春の瀬戸内のようなべた凪である。ローリングもピッチングも全くない。風速計は10m/sec を指し、風向計は船首方向を指している。本船のスピードは約20ノットであるから、秒速約10m。即ち、全くの無風である。朝食時、船長の許可を得たので朝食後、重装備のダウンジャケット上下を着て船首楼へ出た。まだ 氷が融けかかった状態であるので、船首楼甲板上は両手をついて這っていった。やっとの思い出スペアアンカーの前に立ってフードを後ろへ取ると、ここではディーゼルの音はもう殆ど全くと言っていいほど聞こえず、極く微かな、しかも和らげられた振動が伝わるのみで、船首が波を切る音が聞こえる。その音はザワザワというものでなく、薄い氷が炭酸水の中を行くかの如くピシピシというように聞こえた。速い。穏やかな海面を実に速く走っているのが分かる。ブリッジへ戻って右舷ウィングデッキから新しいフィルムで1枚撮影。
夕食後 1800 時間調整のため納沙布埼沖30マイルにて機関を停止して drift 開始。昨日までは21日 0800 大井着岸予定だったが、先船(Ever Green 社のコンテナ船)との関係で21日 1300 に変更になったためという。機関室に居て機関停止の模様を見守った。

88RPM から徐々に回転数を下げ、critical RPM を素早く通り越して完全に燃料を遮断する。コントロール・ルームから主機を見ていると、シリンダー・ライナーの潤滑ポンプを駆動するカムがかなり長くつれ廻りしている 。30RPM 位で2〜3分は廻っていたようだ。

この間に丁度ビルジ・ポンプを運転するというので見学する。ポンプは広島の新興金属工業所製、立連動2連ピストン方式で揚程35m、容量20m3/hである。
機関室内床下のビルジ(淦水と油の混じったもの、外見からする限り真っ黒なドロドロの油のようである)を油水分離器へ送るという。運転に先立ち2〜3箇所のバルブを長いレンチをくるくる廻して開け閉めするが、補機の騒音にかき消されて説明は分からなかった。さて、ポンプの傍らには2つの圧力計がある。1つは吸入測圧力 計で、時計の10時の位置から5時の位置まで黒字で0から2kg/cm2 の目盛りが刻まれている。そして10時の位置から時計と逆廻りに7時の位置まで赤字で0から76cmHg の目盛りが刻まれている。もう1つは吐出側の圧力計で、7時の位置から5時の位置まで黒字で0から6kg/cm2 までの目盛りがある。
 運転前吐出側の圧力計は0.8kg/cm2 を指していた。これはポンプ吐出口から油分分離器(ポンプより数メートル高い位置にある)までのパルプ内の圧力を示すものであろう。吸入側圧力計は黒字の1.0kg/cm2 を指していた。一機士の説明によれば、吐出側の Non-Return Valve が完全に効いていれば、吸入側圧力計は理論的(或いは配管上)には0を指すべきものだが、完全に閉まっていないためこのように指しているものとのこと。そこで、このビルジ管の場合、水だけでなく粘性の高い油も通っているから Non-Return Valve に僅かの間隙が出来やすく、そのため圧力が伝わっているのではないでしょうかと尋ねたら、そうかもしれないとの返事だった。さて、運転を開始したら吐出側圧力計は2kg/cm2 を指し、吸入側は赤字の20cmHg を指した。20cmHg は0.26kg/cm2 に相当するから合計2.26kg/cm2 の働きをしていることになり、これは揚程約23mの仕事をしていることになる。床下を見ると粘性の高そうな真っ黒な油が格子の下のビルジ溜めへゆっくりと流れ落ちて引かれている。
やがてポンプの音がカタカタいうようになり、吸入側圧力が0付近を指すようになった。エアを吸い始めたということであろう。


ところで、船橋では行脚のなくなった船の航海灯を消し、レーダーマストに垂直全周紅色灯二連を掲げ、やがてデッキライトをも点灯していた。船長に「ドリフト中に揚げるべき灯火については、衝突予防法に規定があったでしょうか。」と尋ねると、船長は「規定はない。垂直全周紅色灯二連は衝突予防法上は操縦不自由船が 掲げるべきものとされており、本船は操縦不自由船ではないから厳密にいうと違法かもしれないが、他船にぶつけられてはかなわないから掲げている。結局、衝突予防法にはドリフト中 掲げるべき灯火について規定がないので Good Seamanship によって処理せよということであろう。よって、いまデッキライトも点灯し、他船に注意を促している次第である。」旨の回答であった。実際、ドリフトすることは特に燃料が高くなった現在、実際の航海上時々あるであろうに、その場合に 掲げる灯火について規定がないとは驚いた。Seamanship で補えといっても、各船まちまちの判断では混乱も生じやすいであろうと思った。
(パシフィカ 241−6771)
 ウィリアム・ホッファー著  羽林 泰訳
 海難 1,400円 1980年6月10日発行
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1月19日の Log Book
0035 Increased engine revolution to 88RPM for adjusting arrival time
0400 Sea moderate                                S log 255’
4 における針路233゚(T)、風向N、風力3、天候b、気圧1017.5
大気温度 乾0.0・湿マイナス1.0、海水温度1.5、主機回転86.8、Log78、OG80
0740 Bore Etorofu Id Eastern Pt on <296> 72’ off by radar
0800 Sea v smooth
8 における針路233゚(T)、風向 Calm、天候bc、気圧1015.5
大気温度 乾マイナス1.0・湿マイナス1.5、海水温度2.0、主機回転87.2、OG85、Log77
Put ship’s clocks ab’k 0h−15m
1145 Bore Mt. Tokkarimoi Pt on <310> 76’ off by radar
Noon Sea v smooth                             Reset S. log showing 415’
Noon における針路233゚(T)、風向NW、風力1、天候c、気圧1013.0
大気温度 乾マイナス0.5・湿マイナス1.0、海水温度2.5、主機回転86.9、OG86、Log83
1510 Bore Sikotan Sa eastern end on <327> 37.0’ off & a/co to <237>
showing S. log 61’
1600 Sea very smooth                                S. log 78’
16 における針路233/237、風向N、風力2、天候o、気圧1013.0
大気温度 乾マイナス3.0・湿マイナス3.5、海水温度2.5、主機回転87.0、OG83、Log78
1800 S/B Eng. & soon stop’d eng. due to adjustment of Tokyo arrival
2000 Sea moderate                                  S. log 114’
20 における針路 drifting、風向NNE、風力4、天候s、気圧1014.0
大気温度 乾マイナス1.0・湿マイナス1.0
M.N. Sea moderate
Reg. lights were strictly attended to
Round made, all’s well
M.N.  drifting、風向N、風力4、天候b、気圧1014.5
大気温度 乾0.5・湿0.0、海水温度2.0
正午位置 実測 44−58N 148−35E
推測 Coasting
航海時間 24−45
航海距離 449
航進時間 24−45
航進距離 449
平均速力 18.14
推測距離 415
同上平均速力 16.77
距離 From 3,972 To 776
海潮流 Tidal
飲料水1日消費量 28
Fresh Water
NO.1 F.W.T. P112  S96
NO.2 F.W.T. F
NO.3 F.W.T. P47  S46
Low A.P.T. F
 
Bilge P cm S  cm
NO.1 hold 10  7
NO.2 hold  4  7
NO.3 hold 62 12
NO.4 hold 13  3
   2                 0
NO.5 hold 12 14

船内使用時整合
Ab’k 0h−45m
Total 6h−00m
Balance 1h−00m
二港間の合計
航海時間 8−17−10
航海距離 3,942
航進時間 8−15−18
航進距離 3,924
平均速力 18.93
推測距離 3,738
(D. Run by Log)
平均速力 18.03
(Av. Sp’d by Log)

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